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~名もない蛾と虹の錯乱~ 内の思いと外の色彩をつらつらと。
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The World of Poetry
昔ちょっと素敵なハードカバーのノートを買って、自分のお気に入りの格言や詩などを書き入れたQuotebookを作ったのですが、つい最近一目惚れしたノートの使い道を考え考えまくった結果、もうすぐ私も生誕25周年ということで新しいQuotebookを作ろうと決めました。
今ちょうど書き入れるものを探しているのですが、今回は前回はあんまり知らなかった俳句、短歌なども含める予定です。

詩・・・は昔から好きで。
一時は自分にとって一番しっくりくる表現形態だったこともありますが、15~6歳の時に書いた「死の島」(ベックリンの絵をもとにしたラフマニノフの交響詩をもとにしました(笑))を超えるものは書けないと気づいたのと、あとピアノやストーリー書きがある程度自分にしっくりくるようになって以来詩は書いていません。
ちなみに「死の島」を書くにあたって参考にした「Lament for the Makers」という詩もあるんですが、かなり長いので今回のQuotebookには入らない恐れが・・・残念です。

なのでいまはすっかり詩に関しては読み専です。
やっぱり新しい詩や詩人を知るファーストコンタクトは音楽(特に歌曲)ですがね。そのつながりで今ヴィクトール・ユーゴーの詩集を探して買おうかな、なんて考えていますし、あとブリテンの「戦争レクイエム」からWilfred Owenの詩が大好きになりました。
他にもAnna Akhmatova, Guillaume Apollinaire, Rainer Maria Rilke、エドガー・アラン・ポーなどの詩が好きです。
中でも面白いのがFederico Garcia Lorca。何が面白いかというとプーランクは彼の死を悼んで名曲であるバイオリンソナタを作曲しましたし、ショスタコーヴィチは交響曲第14番の中で彼の詩をいくつか使ってますし、なによりもクラムが彼の詩を音楽に多用しているところです。3人の作曲家の心をこうも強く掴んだ詩人としてロルカはものすごく興味深いですが、時代的に(あの3人と同じ時代に生きてた)まだ著作権の問題があってなかなか英語の翻訳にはめぐりあえていません。

日本語だと武満徹の音楽を通じて知った瀧口修造、小さい頃から親しんできた谷川俊太郎、そして母の古い本(母は国語教師をやっていて指導要領みたいのを持ってるのですが、これがいろんなところでものすごくUseful!)で出会った立原道造が好きです。
やっぱりなんというか、日本の文学にはなかなか疎いほうなので・・・(ついつい優先順位を後らせてしまうのです)

でも立原道造の詩は本当に心から愛しています。
今の日本人が失ってしまった何か、そして外国人が日本人に想像しているというか期待しているクオリティみたいなものがあるようで、そしてなにかと複雑なものを好んだり、複雑な世界を周りに感じてしまう私にとって本当に大切なもの、これだけあれば幸せだな、というものを教えてくれる詩の数々。
物静かで、色彩にあふれて。頭が気づかない、心が求めているものを形にしてあるような。
私が詩を書いていた時代は自分の精神状態からいってこんなものはとうていかけなかったでしょうが、こんな詩が書きたかったなあーとものすごく思います。

本当に好きな詩に出会うと、心が癒されるとか何かを感じる、というよりは心がその詩の中にあるクオリティを求めてものすごく前に前に出ようとするんですよね。自分がこれといったものに関しては単純に貪欲なのは音楽でもなんでもどうやら一緒らしいです。

前述Wilfred Owenの詩はまた違うクオリティも持ち合わせています。
彼の詩は全般反戦を題材としているのですが(ちなみに彼が師と仰いでいたSiegfried Sassoonという詩人もまた素晴らしい反戦の詩を書いていて、そして戦争で亡くなっています)、そのやり方というかがものすごく見事です。
彼の詩の中では戦勝国も、敗戦国も、攻めた方も、攻められた方の人々もみんな同じ「戦争に巻き込まれた被害者」で、例えば自分の国のことに限定して語らず、ものすごく国的に、サイド的に中立した立場で語ります。
(ちなみに彼の詩を使うブリテンの「戦争レクイエム」もまたイギリス臭というかイギリス特有の愛国的音楽の特徴が比較的弱い音楽です。)
その「被害者」のなかで彼は特に戦争に参加することとなった若人(もちろんどこの国の、というのは無関係)です。
そして彼は強い反戦の気持ちを「戦争はいけない」というような方法で伝えるのではなく、時には聖書のエピソードをもじったりもしながら、反戦のメッセージを伝えるというよりは「読み手に戦争は怖い、むなしい、いけない」と思わせるような物語を詩によって綴るところがまた良いです。

一番好きなのは(手持ちの詩集には入ってないのですがネットで読めます) 「A New Heaven」です。(戦争で人を殺したために)いろんな神話や信仰での「天国」にはたどり着けなかったけれど、せめて故郷の母の胸で眠りたい、というものすごく優しく、切ない詩です。思い出すだけでちょっと泣きそうに・・・(すみませんねえ、なんか変なところで最近センチメンタルなんですよ)

これからもいろいろ詩を読んでいきたいと思いますが、同時にいつかまた自分は詩を書きたいと思い、書くようになるのかな~と思わずにはいられません。
でも未来をわかるすべはないので、もしかしたら、そのうち・・・その時が来るのを楽しみに待ちたいと思います。


今日の一曲: ベンジャミン・ブリテン 「戦争レクイエム」 「Offertorium - So Abram Rose」




ロルカの話も出ましたが、こっちの方が詳しいのとこっちの方をいまプッシュしたい気分なのでブリテンを。

子供の合唱団とオルガンのアンサンブルから始まるこの楽章は、前半はレクイエム・ミサの「Offertorium」 (Domine Jesu Christe...)のテキストを用い、そして後半はWilfred Owenの「The Parable of the Old Man and the Young」を用います。
音楽的にはなかなかストレートで(特に後半は。テノール、バリトン、そして楽器がそれぞれ劇のように役割を担ってるので)解説は要らないと思うので歌詞と音楽の関係について少し紹介したいと思います。

この「The Parable of the Old Man and the Young」という詩は、旧約聖書の信心深いイサクが神に息子を生け贄として捧げるように、と言われたそこそこ有名?な逸話のパロディーで。
聖書では息子にナイフを振り下ろそうとしたイサクのもとに天使が表れて「神はあなたの信心の深さがよく分かった。代わりにあそこにいる牡羊を捧げなさい」といい最終的に羊が生け贄になるのですが、Owenの詩の中ではイサクが天使の言うことを聞かず、息子を殺す、という展開になってます。
解説すれば、これは戦争で世界の父親達が息子達を国のために、と戦いに出し、結果殺すことになることを皮肉っている詩なのです。

そんなやっぱりちょっとぞっとするような詩なのですが、ブリテンも作曲家としてもっとぞっとすることをやってくれます。
天使が表れて先ほどの旨を伝えた部分のあと、「イサクが息子を殺す」部分ではブリテンは歌詞の反復や、音楽的なことでその部分を強調することなく、むしろ淡々とその殺害をスルーしてしまうんです。
(その後の「And half the seed of Europe, one by one」の部分は執拗に繰り返すのに!)
めちゃくちゃ二度見ですよ!音楽なのに!で、それでスルーされたと解ったとたんにものすごくぞっとします。
まるでイサクが息子を殺すことが、父親が息子を国のためにと戦争に送り出すことが当たり前のように・・・
そして最後の子供の合唱がうらめしいような、淋しいような、切ないようなで・・・
ああ怖い。これがでも詩人&作曲家の意図そのものなんですよね。

音楽的には本当にあんまり言及することが少ない楽章なので、今日詩と絡めて紹介できてよかったなーと思います。あるいみ心のつっかえが一つとれました。
でも言及することが少ないからといって音楽の価値が低いわけではありません。ものすごく音楽としても心からオススメの一つであり、さらにこのレクイエムの重要なピースでもあります。

戦争レクイエムはこれでAgnus Dei、Offertoriumと2楽章制覇ですね。これからまた他の楽章も紹介していき、この偉大で素晴らしい作品の全貌を語っていけるようにしたいと思います。

最後に:戦争レクイエムはあくまでもイギリスの作曲家がイギリスの詩人の作品をテキストとして用い書いたものですが、変にその戦勝国としてのイギリスという国にこだわらないで素直に聞いて欲しいです。
ブリテンも、オーウェンも、言いたいことは戦争は勝った国にも負けた国にも、戦争の始まりからずっと未来まで大きな悲しみと苦しみをもたらし、それはどの国にも共通した辛さだということで・・・彼らはその国境や国の立場を超えた思いを素晴らしい形で表現したと思いますし、その違いをうまく超えて表現したと思います。

「日本人」という立場からは共感しづらいトピックではありますが、音楽にはそれを超える力があり、聴き手さえ心を閉じさえしなければ本当に音楽を通じてわかり合えることは可能だと思います。

現代音楽ですし、まだまだ記憶に新しい歴史ですし、ものすごく生々しく辛さと苦しさが表れる音楽ではありますが、全ての人に一度聴いて、同時に感じ、考えて欲しいと私は強く願ってます。
子供にはちょっと早いかもしれませんけれど大人にとっては「戦争」というものを考える教材の一つであっていいのではないか、と思います。

長々と失礼しました。


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