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~名もない蛾と虹の錯乱~ 内の思いと外の色彩をつらつらと。
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"Sylvia"感想
久しぶりの感想です。
オーストラリアの作家、Bryce Courtenayの作品には「Potato Factory」のシリーズを始めいろいろと有名な本がありますが、「April Fool's Day」以外実は読んだことがなく(これは後にまた再読して感想を書きたいのですが「小説」とはちょっと違う本です)、読みたいな~でもどうしようかな~と思ってたところに出た新刊で。
「子供十字軍」を扱う本と聞いて大変興味をもち購入したところ・・・相当のアタリでした♪

Bryce Courtenay "Sylvia"



12世紀のドイツを舞台にしたこの物語は主人公シルビア自身によって語られる彼女の伝記です。
ドイツの片田舎で母親を早くに亡くし、第1次十字軍から負傷のため帰ってきた父親に虐待を受けたシルビア。
もちろん田舎の村なのでそういった事の噂はすぐ伝わり、口うるさいおばさん連中からは汚れた子供として扱われるようになります。
シルビアには生粋の美しい歌声、歌や言葉を聞いただけで覚えられる素晴らしい耳、モノマネの才能があり、ある日ひょんな事で村人に聴かれた歌声、そして彼女の背中に生まれたときからある魚の形のあざ(魚はキリストのシンボルでもあります)を注目され、「奇跡の子供」と呼ばれるように・・・

が、それを確認しにきた神父の前で歌うことが出来ず、結果的に彼女は村から追放されることに。
そして彼女にとって紆余曲折の旅が始まることとなるのです。

この小説にとって最も重要なエレメントは「聖と俗の対比」でしょうか。
シルビア自身のアイデンティティがまさに聖と俗のぶつかりあいで。
「汚れた子供」とつばを吐かれまでした彼女が民衆の中で聖女のように崇められるようになること。
そしてボンの町でそうやって(農民出身としては例外的に)聖女として修道院に招かれるまでにもなりながら、夜はお世話になっているユダヤ人の夫婦の知り合いが経営する売春宿で歌手として働き。
強い信仰心と修道院で神学などを勉強する探求心の反面、必ずしもキリスト教徒ではない人々や売春宿のスタッフと触れあい、一緒に音楽を奏でたりしながら楽しくやりたい気持ちも強く。

教会の見解、民衆の見解やうわさ、身の回りで起こる偶然や説明の付かないことの多くに巻き込まれ、弄ばれるようにして生きて行くシルビア。
彼女の視点から見たこういった出来事は奇跡と思われるものがいかに大げさで誤解を招くものか、同時にたまには説明のつかないことも確かに起きるんだ、ということを表しています。
十字軍の時代は本当に価値観・宗教などが迷走していた時代だということもあってそういったことが人々と信仰を本当に引っかき回したんですね。
教会の教えや権威、信仰の形などが本当に理不尽だった時代で弱い立場として生きて行く辛さとしたたかさが物語に表れています。

ただ主人公の性格上シルビアは引っ張り回されるばかりで生きてはいません。
農民出身、しかも親を早くに亡くした若い女性というステータスは当時としてはかなり!不利なものですが。
彼女はその美貌、歌声、そして頭脳を武器として様々な逆境に立ち向かっていきます。
とくに「学ぶこと」ということがどれだけ人、特に弱者の力になるか、というかがこの物語では強く訴えられています。
ユダヤ人のMaster Israelに学んだ言語やチェス、修道院でBrother Dominicに学んだ理論的思考と立ち回り、Frau Sarahに学んだ植物の扱いなど・・・
シルビアの学びたいと強く思う思い、学ぶことで力がつくこと、そして視点が広がること・・・そして身につけた知識を実際に使う力・・・こういったテーマを扱う本は意外と少なく、そういった意味でこの小説は大変強く訴えるものがあると思いました。

この小説でもう一つちょっと特殊なのが「性」関連のテーマ。
主人公が女性で一人称で書かれてることもあり、女性にとっての性的ないろいろ(性への目覚めや、あと売春宿の女の子たちの話など)を扱うことが多いのですが・・・男性作家だとは思えないほどの女性的な視点と共感に心底驚きました!
女性として個人的に性的なエレメントにいろいろときめく箇所が正直結構ありました(笑)
シルビアが歌手として働いた売春宿Ali Babaは描写のうまさもありますがなんというか外の世界とは別世界で。(そういった意味ではまた優秀な売春宿ですよね)ロマンチックなんですよ。
そして性といえば当時の信仰などに関する文化の他にもちろん俗文化もあり。そういった民謡などでよく性が扱われ、子供の性教育などにも使われていた事情も描かれていてそれもまた興味深いです。
ちなみにもう一つ。私の知ってる本のうちで男×女、男×男、女×女全てのそういったことを扱っているのはこの本だけ。そういった意味でもまた特殊な物語です。

さて、シルビアの主人公としての性格ですがいろいろあれども私は本当に気に入っていて。
この物語を無事生き延びたことでわかるようにかなりタフでしたたかで。
最初はでも男性不信が強かったこと、そしてそれとは反面に信仰に対していかにピュアでナイーブだったかが目立ちました。
そのナイーブさ、タフとナイーブの奇妙な組み合わせもまた私の心をしっかり掴みました。
美貌も、「聖なるあざ」も、聖女としてのステータスも、うらやむ人は多いのだろうけど彼女にしてみればありがた迷惑というか「なりたくてなったんじゃない」的なところがあって、そういったところにも共感が強かったです。

彼女の歌声、そして頭脳と立ち回りは本当にいろんな人を、信仰を、大衆を、ビジネスを動かして・・・
彼女には奇跡を起こす力、というか多くのものを動かす力があったことは事実です。(その形態が音楽だというのもまた嬉しいですね!夢があります)小説の主人公としては本当にパワフルな分類に入って、なんか・・・爪の垢を煎じて飲みたい気分になります。物書きとしては。
読む方としても本当に魅力的。

シルビアは生まれた村をあとにしてから本当にいろんな幸福な出会いをしました。
彼女の最高の相方であり親友で後にハーメルンの笛吹きとなるネズミ取りのReinhardt、彼女に女性としての立ち回り、弱い性として精一杯生きる方法を教えたFrau Johanna、Frau Sarah、そして売春宿Ali Babaの女の子達・・・先ほども言及しました彼女を学びで導いた師たち・・・
その出会いを読んでいるだけで本当に良い本を読んでるなあ、という気持ちになります。

あと当時(に限らず)悪者とされやすいユダヤ人の描写が気に入りました。本当にこの小説の彼らの生活や思想からは本当に学ぶことが多いです。

あと読んでみてエンディングに疑問を持つ人は多いと思うのですが、あえてこの物語をオープンエンドとしておくことでここからまた新しい物語が始まるんだ、ということ、そしてReinhardtと彼女の新しい旅に対して読者が希望と想像を持つことという目的ではある意味ありかな~と思います。
最後の最後のReinhardtの台詞の茶化した感じはある意味ではここまで読み進めて良かったな~という気持ちも持てますし(あくまでも脱力のなかのどこかにその気持ちはある、ということですが)。

ときめいたり、学んだり、共感したり、たまには不安になったり・・・小説としても、それ以上としてもこの本は魅力的で。いろんな意味で私の本棚の中で特別な位置にあります。
言及しませんでしたが「子供十字軍」も確かに重要なエレメントです。価値観、宗教を含めてこの時代は本当に面白いので、そういった意味でもまたお奨めの一冊です♪



今日の一曲: カール・オルフ 「カルミナ・ブラーナ」より「Stetit Puella」



カルミナ・ブラーナ。この曲はドイツで20世紀に書かれたものですが、もとの歌詞などはまさにシルビアが生きた時代に彼女の言語(たくさんあるうちラテン語・中高ドイツ語)で書かれています。
つまりこの作品に出てくる民謡的なものはシルビアの物語とも通じているのです♪
ちなみに本のこともありオケはドイツのものをセレクトさせてもらいました♪

カルミナ・ブラーナは大きく分けて3部から成り立っています。
第1部は田舎の風景、第2部は酒場の風景(そのため合唱は男声のみ)、そして第3部は「愛の誘い」と名付けられています。
このStetit Puellaは第3部からの曲です。
第3部は恋に落ちてから身も心も結ばれるまでのいろいろをあんなことやこんなことを交えて描いています。

ドイツの田舎の風景もシルビアのルーツなのですがこのStetit Puella(若い娘が立っていた)がなんか・・・シルビアのPetticoat Angelというアイデンティティを少し思わせるようで。
幼くもどこか妖艶で、聖なるピュアなものでもものすごくセクシーな何かがある、という・・・?
そんな若い女性をどうこうしたくなる男心をさりげなく表してるかと思いきやかすかにそんなバカな男を誘う女心も見え隠れしたり・・・?

カルミナ・ブラーナ自体はものすごく大編成で、大編成のオケ+ピアノ2台+合唱+子供合唱+ソプラノ、テノール、バリトンのソリストが勢揃いなのですが。
このStetit Puellaに関してはものすごく小編成。少女のピュアさを思わせる純粋な音の楽器とソプラノのアンサンブルです。
弦のハーモニクスによる高音の透明さ、そしてソプラノの歌うメロディーの素朴な美しさが光ります♪

カルミナ・ブラーナは結構最後の方になってくると性に関する言及が結構露骨になってきて(笑)それを話すのもそれはそれで面白いのですが・・・
この曲はそんななか少ない音と少ない言葉でさりげなく視線が会ったり、ちょっとした誘うような表情、思わせぶりな微笑、このあとどうなるかの含蓄など・・・そういったものがみんなさりげなく表れて。
なんでしょ、やっぱりくすぐったいようなロマンチックさがあるんですよね。

カルミナはたくさん楽章があるのでさくさく今度も紹介していきたいです~(汗)

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