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~名もない蛾と虹の錯乱~ 内の思いと外の色彩をつらつらと。
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The Destroyers
音楽のジャンルくくりはいろいろありますが、今日はちょっと色んな意味で強者揃いでいってみようと思います。

クラシック音楽を癒しと結びつける傾向は巷に(特に日本で)あるようですが、あくまでそれは一部の話。
どんな音楽のジャンルでもそうですが、音楽は本当にいろいろな言葉で表せるもの、表せないものを表現するので、曲の性格、人に及ぼす影響は本当にはかりしれなく範囲が広いですからね。

そのなかでも私が特に強い思い入れを持っているのは・・・「破壊的な音楽」。
若いからなのかやっぱり大きな破壊的な力に惹かれる、というのもありますし、特にクラシックではこれだけの力をスピーカー等なしに、人間の力で創り上げられるんだ、こんなパワフルな音楽が一人の人間によって書かれたんだ、という圧倒される気持ちもあります。

でもなによりも私の友人でありオーストラリアの偉大なピアニスト、Michael Kieran Harveyが数年前大学のピアノクラスでリストの超絶技巧練習曲について話をしたときのこの言葉が自分の中に強く根付いているのが大きな理由ではないかと思います。
「ピアニストは誰かを殴りたくなったらマゼッパ(超絶技巧練習曲の第4番)を弾いてそこに思いをぶつけるという選択肢があるという意味では幸福だ」、とマイケルは言ったのです。
心に抱える巨大なエネルギーや感情や思い・・・言葉には出来ない、抱えて押し込めるにはマグニチュードの大きすぎる、発散方法を間違えれば他に危険を及ぼしかねないそれを浄化するために、マゼッパを初めとする「破壊的な音楽」を通じて危険ではない方法で発散する、という・・・
ピアノを弾くこと、破壊的な音楽を弾いたり聴いたりすることによる発散の大切さ、というものを思い知りました。

弾くことに関しては破壊的な音楽はものすごく弾きごたえがあります。
命が(後ほど詳しく書きますが)かかった音楽であることが多いので。それも一人の命じゃなく。
なのでそういった曲を弾く時は特に自分の全てを絞り出して・・・かけられているのは自分の命だけじゃないわけですから。
ものすごく疲れるけれど、自分の全てを出しつくすのは本当に満足です。
(ちなみに弾くのではなく聴いただけでもかなり近い感覚が味わえます♪)

ヘヴィーメタルなどの「破壊的な」音楽が人間に果たしてポジティブな影響をあたえるのか、それとも有害なのか、それにはいろいろな説がありますが、そういった音楽が好きだからといって危険な人物、というわけではないです。
こないだ読んだ論文によると、ネガティブな感情を含んだ音楽を聴いても人間は様々な理由で(音楽が害がないということを学習して、または美的な感覚によりネガティブな感情の辛い部分が阻害されて、などなど)音楽に対してポジティブな感情反応をするのがごくごく普通だ、ということらしく。
つまりは感情を直接自分で経験するときの痛みや苦しみを感じることなくそういったネガティブな感情と向き合える、そんな可能性を音楽(ならびに他の芸術形態)は秘めているわけですよね。

私のチェロの先生が「演奏家の仕事は聴衆を彼らが今日訪れていない所に連れて行くことだ」と言っていましたがそれはもちろん良いところだけではないです。
「破壊的な音楽」を通じて聴衆の手を引き地獄にでも連れて行けるようになるくらいの演奏家になりたいなあ、とも思っています(笑)天国から地獄まで色んな体験を聴衆に提供できる演奏家。いいなあ。

いろんな音楽を聴いてきて、やっぱり破壊的な音楽(聴く・弾くどっちでも)でないとすっきりしないもの、「癒し」という形態では浄化できないものもありますし、破壊的な音楽でないと経験できないものもたくさんあるんだな、と思うようになりました。
そういう意味でも、音楽、そしてピアノやオーケストラ、さらには人間がこんなにも巨大なものを創り上げることが出来るのを知って欲しい、といういみでも「破壊的な音楽」の体験を強くお奨めします。

そんな「破壊的な音楽」の特に並外れた規格外の猛獣たちを6つご紹介。
辛さ・苦しさと快感・高揚のレベルが共に高く、せめぎあいがたまらない音楽ばかり!
どれも違ったタイプの、他の曲ではなかなか味わえない体験が味わえる曲達です。

1) ジョージ・クラム マクロコスモス第2巻 第8楽章「Tora! Tora! Tora!」
系統:天変地異系 マグニチュード:世界一つ破壊
私が弾けるなかで一番破壊力の高いこの曲。ピアノ曲ですが、タイトルの言葉をシャウトしたり、特殊奏法があったりで奏者への破壊力もなかなか(笑)
副題にCadenza Apocalitticaとありますが、まさにこの曲はApocalypse=新約聖書「ヨハネの黙示録」に描写されたこの世の終わりの情景。それをタイトルからも分かりますように真珠湾攻撃の空襲の破壊となぞらえたところがあります。
英語で言うFire and brimstones、炎や隕石などが降ってくる情景で、地獄絵図がうねるようなスケール、旋回するパッセージ、巨大な不協和音でピアノをあますことなく使い描写されています。

2) グスタフ・マーラー 交響曲第6番
系統:完膚無く徹底的に打ちのめし系 マグニチュード:人生破壊 over and over and over...
残酷、というにはあまりにも絶対的で巨大な力で、挫折・絶望と言うにも重力の大きい・・・
立ち上がったと思ったらまたたたきのめされる、首をへし折られる、脊椎を砕かれる・・・
七転八倒という言葉を超えて辛く苦しい。でも快感もかなりあってその交錯する思いがたまりません!
でもその力の巨大さと、絶望と、それでも立ち上がる人間の精神のシンフォニーがまた素晴らしく。
光の明るさや高みに上り詰めた快感、闇の深さと残酷さの両極の無限が味わえます。

3) ドミトリ・ショスタコーヴィチ 交響曲第11番
系統:虐殺系 マグニチュード:犠牲者4000人以上とも
ショスタコーヴィチは破壊の申し子とも言えるんですが、そのなかでも最も直接的に破壊を描写しているこの曲。血の日曜日事件の虐殺の生々しい描写である第2楽章には本当に当時行進した何千人もの苦しむ人々の命がかかっているというか凝縮されている、というか。
ただ虐殺のシーンで感じてしまう快感もタブー感もありながらかなりのものです。
ショスタコの破壊的エネルギーは若い人に共感を得ますし、私は小さな頃から慣れ親しんだ物。
他の曲でもそんなエネルギーが味わえますが紹介は後の日に!

4) プロコフィエフ ピアノ協奏曲第2番
系統:精神破壊系 マグニチュード:見えないところで見えない物が全て大爆発
数あるピアノコンチェルトのなかでどんなに難しくてもこれだけは譲れない、と私が思うのがこの曲。
この曲に取って代われる物など存在しない、と固く信じています。
第1楽章の長々とした吐露のような、精神がどんどん破壊されていって内なる爆発を起こすカデンツァ、第3楽章の人間が書いたものとは思えないカオスなど・・・
ひたすら苦しく、のたうちまわり、自分に刃を向けるような、内なる巨大な破壊力との熾烈な戦い。
正気じゃない、と思えますが緻密な計算のもと書かれているところもぞっとします。

5) ベンジャミン・ブリテン 戦争レクイエム
系統:全部破壊系 マグニチュード:全てが無に帰す
戦争の破壊と悲惨さを描写した名曲として何度もこのブログで言及している曲ですが、実際にその背景から音楽を切り離すと破壊力は減るどころかこの世界の戦争という枠を取り払われて無限に拡大する、という恐ろしい曲。
Dies Iraeの一連の音楽、そしてさらにLibera Meのくだりのダークなクライマックスはもはや人間同士の戦争という域を超えて世界が、世界を包む全ての物が破壊され滅び去るのではないかと思うほど。
編成が大きいオケと合唱ですが、それでも人間の集まった力でこの世界を超えるこんな桁外れなスケールの音楽とエネルギーが生まれるのにいつも圧倒されます。

6) フランツ・リスト 超絶技巧練習曲第4番 「マゼッパ」
系統:純粋に苦痛系 マグニチュード:身体と精神全て
リストのお得意の超絶技巧で魅せるは暴れ馬にくくりつけられた主人公の拷問体験。
ものすごく主観的な曲なんですよね。頭の中をかけめぐるもうろうとした思考、周りを通り過ぎていく大自然の景色、苦しみ、痛み、そしてそれを超越したハイ的な状態・・・
マイケルが例に出した理由が分かります。あの人はこれで内なる思いを発散していたんだな、と思うとやっぱり彼の中には無限の世界の生命エネルギーがものすごく満ちてるんだな、と・・・
リストはハンガリー人で、この曲もハンガリー的凶暴エネルギーに満ちているんですが、願わくばこのエネルギーを調理前の生の状態でいただきたい、と貪欲になってしまいます・・・

本当はもっとじわじわくる破壊とか、あと拳法にあるみたいな外傷はないけど内臓破裂、とか・・・
作曲家がかぶるのと若干のパワー不足でプロコフィエフのロミジュリの「ジュリエットの葬式」を外したんですが、これは「断腸系」でしたね。

あと破壊力はあっても破壊的ではない曲は選びませんでした。
例えばストラヴィンスキー「春の祭典」とかもろもろメシアンの曲とかリゲティの練習曲第14番「無限の柱」はどっちかというと破壊ではなく同じマグニチュードでも創り上げるエネルギーっぽいなあ、と。

ここに上げた曲は規格外の破壊力なのであんまりいつも聴くわけにはいきませんし(実際に耳で聞くのは稀です)、心の調子が悪い時は避けておいた方がいい曲だと個人的に思います。ものすごいフォースなので普段は楽しめてテンションが上がっても心が弱ってると音楽に心が簡単に負けてしまいますので。

心が弱ってるときのおすすめ曲はまた別の機会にじっくり考えたいですね。
そっちも面白そうです。


今日の一曲はあんなにお奨めしちゃったのでお休みです。


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