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~名もない蛾と虹の錯乱~ 内の思いと外の色彩をつらつらと。
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Science & Music: 生物学と音楽
疲労疲労といってたら、鏡で顔をみたら結構顔にも表れてるみたいです(汗)
目のくま、レッスン前になんとかしておかないと先生が心配するかも・・・
結構そばかすも出てきてるのでこの夏はケア&慣れない化粧が欠かせないか・・・(ため息)

本題になりますが。
音楽が人の心(感情)に影響を及ぼすことは言うまでもないですし、音楽が人の身体に影響を及ぼして生理的反応を起こすこともまた常識になってきています。
ちょっとそこのところの論文は未読なのですが、生物学的な面を見る前でも結構作曲家が音楽のメカニズムのなかに意図して生物学的な、医学的な比喩をつかったりしてそういった効果を狙ってるのかな?というのにはよく出会います。
そこで今日は生物学的・生理学的な比喩のようなものを効果的に使っている音楽を紹介します。

生理学的な比喩でダントツに一番多く使われているのが心臓の鼓動ではないかと思います。
私たちが自分の興奮・リラックスのレベルを自覚するのも鼓動の速さでみるのが分かりやすいですよね。
通常成人の鼓動は1分に60~100回と言われています。一般的に遅ければ人はリラックス状態にあり、速ければ興奮状態にある・・・はず。

ブラームスのピアノ五重奏曲第3楽章、ピアノ四重奏曲第3番第2楽章、さらにバッハの平均律第一巻ニ短調の前奏曲はどれもそんな心臓の鼓動を模倣したようなパッセージが特徴です。
さらにこれらの曲のテンポもまたいいこと出来ています。
メトロノームで表すテンポも鼓動と同じく1分に何回で表すのですが、上記の曲のだいたいのテンポをメトロノームで表すとこうなります(もちろん演奏によって多少の差異はあります):

ブラームス五重奏3楽章 1拍=120
ブラームス四重奏3番2楽章 1拍=126
バッハ平均律第一巻ニ短調 1拍=132

・・・とそれぞれでのパッセージを鼓動とするなら通常の速さよりも若干速めの頻脈状態。
弾いているときにものすごく実感するのですが(きっと聴いてるときも)、鼓動と似た音を少し速めに聴かせることで聴き手の鼓動を速くして少し興奮状態に持ってく効果があるようです。

きっとかならずとも鼓動的なパッセージを使わずともテンポをここら辺にすることでそういう効果は出せると思います。ただある程度テンポが速くなると人の脳は「1,2,1,2」ではなく「1, 1, 」とまとめて数えやすい、感じやすい遅い拍で処理するようになるので効果は同じではありません。そのためにも適度に通常の鼓動よりも速いテンポで、鼓動的なリズムで拍をはっきりさせるという意味ではこういった比喩は興奮状態を創り出すのに効果的なのかも知れませんね。

鼓動に関しては興味深い曲がもう2つ。
まずは今日の一曲で紹介したことのあるメシアンの「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」から第11番「聖母の最初の聖体拝受」。
この曲の後半でメシアン自身が「聖母マリアの胎内に宿ったイエスの鼓動」と明確に示しているパッセージが。
メシアンの指示通りのテンポで弾いていればこの左手のパッセージはメトロノームで1音=240。成人のそれの2倍の速さである胎児の鼓動の速さぴったりになるようになってます。

そしてリヒャルト・シュトラウスの「死と変容」。
この曲の冒頭のビオラのパッセージは病人の弱々しい鼓動を表すとされていますが(これもまた作曲家自身によってそうだと示されています)、見事な不整脈です。シュトラウス自身も病弱だった時期があるらしいのでもしかしたら自身の体験を音楽で描写してたりして医学的に忠実なものだったりするのかしら?
例えば身体・精神の病気にかかわらず音楽を分析して医学的な診断ができたりしたら面白そうですよね。

もうひとつ人間の状態を左右する重要な生理的要素、呼吸。
呼吸法はリラクゼーションでも大切な役割をするといいますし、鼓動よりも意識的に、自発的にコントロールする実感があるので・・・
昔は前のピアノの先生に弾き手が音楽の息を感じて呼吸をすることでフレージングだったりメロディーの形を自然に美しいものにする大事さを教わりましたが、弾き手が音楽の息を感じてそれを表現するのと同じくらい、聴き手もその音楽を感じて呼吸を自然に音楽と共にするもの。

ちょっと話は逸れますが、チェロの先生が言うにはアンサンブルで複数人が弾く際呼吸を共に同じくすることで共感度をアップする効果があるそうです(これは曲を演奏する側と、同じ空間で曲を聴く側にもいえそうです)。実は詐欺師やスピリチュアルな取り込み・勧誘などで相手に共感させるためにかなり使われているテクニックでもあるそう。

閑話休題。
先ほどのテンポやリズムの速さが鼓動と共感するようにフレーズの長さやメロディーの形は呼吸と共感します。(リラクゼーションに音楽を選ぶのにも大事なポイントかも)
もちろんリラックスする方向に呼吸を持って行くこともできますし、その逆もまた同じくありえます。

その良い例がスクリャービンの前奏曲op.11-14。
この曲の拍子は15分の8というかなりレアな拍子です。まとめてみると5+5+5で大きな3拍子ともとれます。
この拍子が曲者で、同時にすごい効果を生み出すのです。

呼吸というのは呼気(吐く息)と吸気(吸う息)が基本同じ長さです。
音楽でも2拍子が自然なのは歩く際右、左と足2本で動くのもありますが呼気と吸気が対になっているから。
たとえ3拍子でもフレーズが4小節だったり8小節だったり偶数の小節で成り立っているので一小節毎に吸気、呼気を繰り返して呼吸が自然に成り立つのですが・・・

この曲の場合まず15拍子を3つに分けた5拍子グループがまず奇数なので2で割り切れない。
3+2、3+2、3+2を吸気と呼気に当てはめると吸気の方がかならず長くなって過呼吸状態になります。
さらにまとめると3拍子なのでこれもアシメトリー。しかも各5拍子グループが長いので5拍子を一呼気、一吸気にすることもできない。
結果過呼吸を余儀なくされる、という。

呼吸はやっぱり大事だな~と私が思ったのはバーバーの「弦楽のためのアダージョ」を弾いた時のこと。
映画「プラトーン」で有名になった曲、悲愴な曲調ととってもスローなテンポで生み出される独特の張り詰めた雰囲気が心を打つ一曲なのですが・・・
フレーズが長すぎて呼吸が出来ないので私が弾くのにも聴くのにも最も苦手としている曲の一つです。
呼吸が出来なくて苦しいというのももちろんあるのですがある程度呼吸でまとめないと脳が処理しきれないんですよね。一つのフレーズさえもひとまとめとして認識できなかったり。
(ちなみに「弦楽のためのアダージョ」、「Agnus dei」という合唱のための編曲もあるのですが、こちらは実際の呼吸の問題もあり少し速めのテンポで演奏されます。)

最近メンタルヘルスだったり医学だったりを少しずつ勉強したりすると演奏の際も感情に訴えかけるだけじゃなくて生理的な効果も狙ってみたいなあ、と思ってしまうので・・・
もっと探せばそういった比喩を使った曲はもっとありますし、どんな曲でもある程度生理反応に訴えかけることはできると思いますし・・・なんといっても生理反応により心の状態が変わるのと同じくらい感情も生理反応に影響があるのでその相互影響、相乗効果で音楽を弾く方も聴く方もより深く感じることを期待しています。

音楽と人間と心と体の繋がり、これからもっと勉強していきたいです。


今日の一曲: アレクサンドル・スクリャービン 前奏曲op.11-14



先ほど呼吸の項で紹介しました曲です。
先ほどのわかりにくい説明で申し訳ありませんが、聴いていただければこの15分の8という拍子とリズムの特殊さ、そしてスクリャービンがそれをどれだけうまく使ったか、ということがある程度分かってもらえるかと思います。

スクリャービンはわりと変な人でした。
最初はピアニスト志望で、手を無理な練習で痛めてからは改めて作曲の道へ。
そしてなんだかどこかで神秘主義に傾倒して音楽のスタイルから方向性から思想からかなり常人とは離れた領域に行ってしまって。
音楽史や芸術史では前の時代に影響し、次の時代に影響を与えてスタイルというものは移り変わっていくものなんですが、スクリャービンは特にこれという影響も受けず自身のスタイルを創り出し、また彼の後継者的な存在も特にいない、さらにどんなスタイルの分類にも当てはまらない音楽史の「カモノハシ」(Robert Pirsigの「Lila」より)なのです。

ただこの曲はかれの初期の作品。まだまだショパンっぽい音楽をかいていたころ。
自身が優れたピアニストだったのもあり、さらに手も小さかったためかなり一筋縄ではいかなく独特な難しい技巧を書く人。(ただ自分が手が小さいのにやたらと大きな手のためのような曲を書くのできっとそれが手の損傷の原因)
この前奏曲は割とストレートな方ですがオクターブベースの左手だったり和音の連打だったりなんともスクリャービンらしい。

リズムと拍子以外にも変ホ短調という暗く内に向かって激しい調だったりハーモニーだったり曲の盛り上げ方だったりどこをとってもエキサイティングな曲。
スクリャービンの初期の作品は聴きやすいものばかりで、特に前奏曲は本当にミニサイズの短めの曲がたくさん。どれも独自の魅力にあふれているのでこの曲に限らずおすすめです。

演奏はもちろんホロヴィッツで。スクリャービンの独特な感性とスタイルのせいか彼の音楽を特に得意とするピアニストというのはきわめて少ないです。ホロヴィッツはピアノの巨匠であると同時にスクリャービンの名手。
私もあれだけスクリャービンの音楽と一致できたらなあ・・・

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