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~名もない蛾と虹の錯乱~ 内の思いと外の色彩をつらつらと。
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"Lila - an enquiry into morals"感想


やっと読み終わりました!いやー大変でした。
この本は「禅とオートバイ修理技術」で知られるロバート・パーシグによる、その続きともいえる本です。
前作で「クオリティ」という名の人間にとっての高度な「価値」のような概念を追求した主人公(そして作者の分身)、パイドロスの新しい旅についての話です。
彼にとって旅とは自身の体が移動することではなく、哲学的思考の旅。そういう意味ではパイドロスは一週間で地球一周してるようなものです(笑)

・・・なので物語のプロットよりも哲学的追求がメインなところが多々あるのでいちいちそこで話が止まってぐるぐるするのが嫌いな方にはお勧めしません。
作者の知的レベルの高さと作風・文体が相乗効果でそこらを消化しにくくするので呼んでてちょっと疲れます。

パイドロスはこの本ではアメリカを船で渡っていて、そのうちにリラという若い女性に出会います。彼女は登場するやいなや厄介者オーラが漂ってるんですがパイドロスはどことなく彼女に惹かれ、あろうことか肉体関係を持ってしまいます。(前作でも結構ストイックな印象があったのでちょっぴりびっくり)
で、その件について彼とともに旅をする友人であり、リラと面識があるらしいリゲルがいったいなんでお前はそんなことするんだ、とパイドロスを説教し始め。それならリラにはお前の言う「クオリティ」でもあるのか、という話になり、パイドロスは自分でもあんまり理解していないながらも自分はリラにある種のクオリティがある、と答え・・・
そこからタイトルにある彼の「モラルの追求」が始まる、というわけです。

人間学にメスを入れる部分とか、アメリカの文化の源泉を追求する話とか、パイドロスの思考はいろんな方向に枝分かれします。いろいろありすぎて本当に例を挙げるのもむしろ面倒になるんですけど、たとえば人間と社会の関係性(人間が社会を創っているのか、社会が人間を支配しているのか、など)や、カモノハシを例に取った「例外」の話。
彼が人間も、素粒子にも同じくクオリティがあって、それにしたがって動いていて、人が細胞の動きでできているように街もまた人間の動きでできているという感じのことを語るので人間にもほかの物質にも同じ力が働いてるーって話は好きです。
共感するのは難しい部分もありますが、前作と同じくどこをとっても考えさせられる本です。

リラ・・・という存在も面白いです。彼女はいろんな意味でパイドロスのいうところの「カモノハシ」で、社会的には彼女はとるにたらない人物なのかもしれませんがパイドロスの思考にはいろんなヒントを与える人物でもあります。
ただこの本はパイドロス主体なので彼女はあくまで彼の興味の対象、にすまないところもあって。
彼女を通じてパイドロスはいろんな思考をめぐらせますが彼女自身をあんまり生身の人間として扱うことは少ないです。読んでてもリラが人間としてあんまり写らないところが多々。
ただリラが心のバランスを崩していてパイドロスと喧嘩したときパイドロスがその感情の爆発を「そういうこともある」と冷静に受け止めたところは自分の経験と重ね合わさったのか妙な安心を覚えました。

物語としてはなかなか納得のいかないエンディング・・・ではあります。ただ本を読み進めていくとこれは仕方がないのかな、この道を進むのが不本意ながら一番なのかな、という不思議なあきらめみたいなものはあり。
そういうところもまああんまりお勧めじゃないのかなあーとか思いますが・・・

なんにしてもとっつきづらい本ではあります。
まずこの本(そして前作も)がアメリカを舞台にしていて、アメリカのことを中心に話を進めているのでやっぱり外国人としては多少なじみが薄いということがあります。

そしてパイドロス自身が多少人間離れした性格であり、多少スノッブなところもあり、意見が偏ってることももちろんありで共感しにくい上反感を持つ方も多いかとおもいます。
パイドロス以外のキャラクターも好感度を持てるキャラは皆無ですしね。

さらに彼が思考の旅に出てしまうとかなり理論的な、無機質な思考の連なりになってしまうことがあって、アイディア自体は実世界を検討するに面白いのですがこうやって読むとむしろしんどいところもあります。
とくにメンタルヘルスの箇所になってくるとそれが顕著に現れますね。この人は人の心を扱ってるんじゃないなーってのがひしひしと。

ただ彼がこの本で語る人と社会、人と価値についての思索は難しくとも、反感を持とうとも、一度読んで知ってみて、それから自分でどう思うか考える価値はあると思います。彼の語ることは理論的ではありますが、現代社会について考える課題とも十分以上になりえるので。
パーシグの本は「好き、嫌い」ではなく自分が彼の本を読んで何を思ったか、何を考えさせられたか、そしてその結果自分はどんな意見や思いを持ったか、ということが大切だと思っていますので。

まったく焦点のぼやけた感想ですみません。そこんとこ難しい本なんですが自分も至らないことをお詫びします。
今度は前作を買って読み返したいと思います。


今日の一曲: ルートヴィッヒ・ファン・ベートーヴェン チェロソナタ第3番 第3楽章


この曲で一番好きなこと、それを簡潔にまとめると・・・
ピアノとチェロがこんなに相思相愛でラブラブな曲はないでしょう!
音楽のよさもありますが二つの楽器の関係にソナタ全楽章萌えっぱなし(笑)

いえいえ、本当にまじめな話、チェロもピアノもどちらが優勢ということもなく、お互いのパートで自身が引き立てられ。聴いていると特にこの最終楽章はどっちも楽しそうで。
あーんな気難しい顔したベートーベンの肖像を見慣れてる方にはちょっと意外かも?

わくわくするような音形、スピード的にも前へ前へと駆けて。
一緒に駆けながらお互いにちょっかいを出し合って、テンポのいい駆け合いで。
なんか笑みが、お互いに向ける笑いが見えるような曲です。

この演奏で弾いているロストロポーヴィチとリヒテル、どちらもそれぞれの楽器でトップ奏者といっても過言ではないですが、この二人は幾度も共演しているらしく・・・やっぱり気心が知れているのでしょうか、そんな感じがこの録音を聞いているとしますね。
室内楽は個人的な感情の絡み、といいましたがお互いリラックスして音楽を楽しんでるんでしょうね。

真剣に音楽を創っているけど、何よりも楽しく、途中でなぜか笑いたくなってしまう。
ピアノとチェロと一緒に、駆け出したくなって、一緒に笑い合いたくなってしまう。

そんなこの曲は、もし私の恋人がチェリストだったら一緒に弾きたい曲ナンバーワンです♪

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