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~名もない蛾と虹の錯乱~ 内の思いと外の色彩をつらつらと。
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メル響「A Spectacular Return - Act 1: Mahler's Third」感想
 前回のエントリーに拍手ありがとございますー♪

行って来ました昨日!メルボルンの最大コンサートホールにして音楽・文化の中心であるHamer Hallが改装後再開され、それとともにメル響の本拠がHamer Hallに戻ったことを祝うコンサートシリーズの第1弾!
このシリーズは1998年から2004年までメル響の首席指揮者を務めメルボルンの人々に愛された指揮者Markus Stenzがを迎えての特別なプログラム。ダブルの意味でWelcome back & Welcome homeですね。

割と現代音楽も積極的に振るMarkusですが(wikipeにはヘンツェの作品の指揮で知られているとあります)、メルボルンにおいてはマーラーのイメージが強く、メル響での最後のコンサートはマーラーの交響曲第2番「復活」を振った印象も強いです。なので今回 最初のコンサートでマーラーを振る、とあっては行かないわけにはいかない。

・・・とわくわくして行った昨日のコンサートのプログラムはこんな感じ:
ロス・エドワーズ 「Water Spirit Song」(チェロ独奏のための曲。チェロ: David Berlin)
トーマス・アデス 「Polaris」
(休憩)
グスタフ・マーラー 交響曲第3番
(第1楽章の後に休憩あり)

結構長い(3時間弱)プログラムで、中身もしっかりがっつり、割となんといいますか聴くにも上級者向けのプログラムですね。ただこの機会でこの指揮者だったこともあってお客さんはかなり入ってました。

改装されたホールなんですが、もとの面影も多々ありながら色々びっくりするような変化も。まず全部の階のfoyerにバーが装備されている!(コンサート前とか休憩中とか後とかに飲むんですよね、結構みんな。雇用も目に見えて増えてます)新しいレストランやちょっとしたお集まりスペースだったり(昨日は色々使われてました)。
ホールの中も色々変わってましたね。ホールの一番下の階(バルコニーは3層だったっけ?)の前の隅に座ってたため音響の違いはよく分からないのですが、オルガンが無くなってたり(新しいのをそのうち入れるかも、とラジオで言ってました)、壁の形とかステージの高さ?とか目に見えて変わったところがちょこちょこ。

そんな新しいホールで一番最初に聴いたのがオーストラリアの作曲家、ロス・エドワーズによるチェロ独奏のための「Water Spirit  Song」。彼の作品の中でもバイオリン(or ビオラ)独奏のための「White Cockatoo Spirit Dance」とどうしてもイメージが対になりますね、楽器とか歌と踊りとかで。
ものすごく神話的というか、即興的で儀式的のようでもあって、不思議な音階の成す神秘的な色彩がもうツボです。美しい。どこか東洋的でもあるんですよね(エドワーズは尺八とか琴とか日本の楽器を使うこともあって、その音楽的な親和性が分かるような気がしました)。

そしてこれまた存命中の作曲家、トーマス・アデス(表記は日本語だとこうのようなので以降こちらで)による「Polaris」。この曲はオーストラリア初演だそうです。Tal Rosnerによる映像とのコラボとして演奏されました・・・が、正直音楽聴いてる時って映像見ている余裕がないのです(特に複雑な音楽とか初めて聴く曲のときは)。
曲は本当に良かったです。アデスの曲で好きじゃない曲なんてないんですよね。今41歳だそうですが、20代の作品から本当に驚くようなことをやってのけて。新古典派っぽい曲やテクノ・ダンスミュージックを取り入れた曲(Asyla)とか、でもどれも独特の透明度と表現があって。
このPolarisはちょっとミニマルミュージックのエレメントを取り入れたようなところがあって、そしてどこかホルストの「惑星」を思わせるような響きもあって、複雑だけどとてつもない音楽、美しい音楽に心を掴まれる感が凄い。
アデズの音楽って全部が全部聴きやすい音ではないんだけれど、聴きやすいと聴きにくいのバランスが自分にとって絶妙だと思います。これくらい聴きにくいエレメントが入った方が聴き応えがあるというか。もう大好き。来年のMetropolisシリーズでのアデス祭りがさらに楽しみになりました。

さて、マーラー3番。先ほど第1楽章の後で休憩が入った、と書きましたがこの交響曲の長さ!第1楽章だけで30分超、全体で90分超というのは(長いでかい交響曲を書くことで有名なマーラーにしても)破格のスケール。
なんか第1楽章を最後に書いたらしく、「頭から書いてたら絶対終わりまでたどり着かなかった」と自分で言ってたらしく。長さもそうですが濃さ・厚さ・複雑さも合わせて「この人(天才ならではの)ものすごい馬鹿なんじゃないか」と思うほどです。この全6楽章を(休憩をはさんで)一つの交響曲として理解・消化するのは至難の業ですよ・・・

でも音楽は本当に素晴らしい。最初のホルン軍団(9人!)のソロから始まり、トロンボーンやチューバの活躍、第3楽章のちょっとユダヤ風な雰囲気とポストホルンのソロや第4楽章のメゾソプラノ(急遽歌手が交替したそうで誰かわからないので上に名前書いてません)の楽章の闇とか、そして最終楽章の純粋な美しさ。座ってるとこから第1バイオリンの楽譜が見えるのですがもう3時間くらいホールにいるのに最後のページになるのが見えると「もう終わっちゃうの!?」と心から残念に思うくらい。

やっぱりステージの近くにいると弦のアンサンブルの崩れとかやっぱり耳に入っちゃうんですが、でも全体としては本当に素晴らしい演奏でした。 Markusがメル響を振ってたころってあんまり覚えてないんですが、でもこうやって彼のマーラーを聴いてると解釈に一つも違和感がないというか、自分にとってのマーラーってこういうものだな、というのが感じられて。やっぱりこれで育ってる(笑)
あとオーボエの第3楽章だったかな?でのグリッサンドすごかったです。あんなグリッサンドする楽器じゃないですもん、あれは。毎回ほとんどパーフェクトにスライドしてたのもすごい(完璧じゃないときの音でどうやってるのか、というのもちょっと解るのでそれもありがたかったり)。

マーラーもアデスもオケをオケ以上のものに、音楽を音楽以上のものにする魔法をもってる作曲家で、その「世界」の作り方が最高に愛しくて、憧れです。
余談ですがクラムはマーラーに影響を受けていると語っているのですが、それもやっぱり「音楽で世界を創る」ところじゃないかと私は思います。それを主にピアノでどうやるか、となると特殊奏法を使ったり、曲の組み合わせなんかも合わせて創りだしていかなくちゃいけないのかな、と。目指すところというか表現したいものというか、そういうところにクラムもマーラーへの憧れみたいなものを私は見ます。

今回のコンサート、長かったのもそうですし、ホールが新しくなったわくわくもそうですが、なによりも音楽を通じてとてつもない体験をしました。ものすごい濃い経験。だからダメージも0じゃないけれど、得る物はかけがえないものでしたね。こんなコンサート今後あるかどうか、と思われるほど。
あ、あとコンサート終わりにピアノの先生に会いました。先生この手の音楽苦手じゃないか(長い・遅い)?と心の中でつっこみたかったですが先生も楽しんでたといいな。

で、このコンサート(Act 1)は今日の公演もあって、ラジオの生放送で今これを書きながらちょうどマーラー3番が流れているところです。まだ今月はAct 2が2公演(ベートーヴェンの田園とワーグナーのワルキューレ第1幕)、秘密のAct 3が1公演あるのでメル響も指揮者さんも大変です!
でも本当にいいプロジェクトで、最初のコンサートも大盛況で本当になにより。たくさんのただいまとおかえりでHamer Hallが満たされてよかった。


今日の一曲: トーマス・アデス 「Polaris」

iTunes Storeでの録音

マーラーも良いんですけど(それでもやっぱり3番は自分の好みだとそう上位には・・・なんですよね)やっぱりこの曲に出会えたのがこのコンサートで一番幸せでした。
アデスが2010年に作曲したこの曲は(プログラムの記述によると)2000年に作曲された「Asyla」、2007年に作曲された「Tevot」という2つのオケ作品と同じようなくくりというか方向性をもった作品だそうで。調べてみると確かに「とてつもなく巨大で複雑な世界のなかでどこかを目指し向かっている」共通点はちょっと見でも見えますね。
(ちなみにAsylaは2004年にメル響・Markusの指揮で生で聴きました。Tevotは来年のアデス祭りでやるそうなので楽しみ!)

先ほどミニマルミュージックの影響が見える、と書きましたがプログラムを読み込んでみると12音技法を独自の方法で応用してたりもするみたいで、先ほど書きました新古典やダンスミュージックなどの取り入れも含めてなんて器用な人なんだ、と。過去も現在も未来も音楽を通して見据えて抱くような作曲家はどんな時代でも希有な存在だと思います。

海を表すような音型の複雑さ(四重奏曲Arcadianaでの水の描写とはひと味違いますね)や音楽のうねりもそうですが、アデスに独特なテューバの超低音の使い方とか、不思議な透明感、不協和音のぶつけ方とか、意外でユニークで天才的で、だけど抵抗がそんなにないというか。そんなアデスの楽器での表現が大好きです。

この曲の最後はものすごい不協和音で終わるんですが、ホールで生で聴くとこの和音の余韻の最後にこの曲を通して主音となっている「ラ」の音の響きがかすか残るのがすごかったです。これもまさか計算済?ラジオだと味わえなくて残念。

Polarisは今のところニューヨークフィルで一つ録音がでているそうです。カップリング曲はなんとマーラー9番。昨日のコンサートもそうでしたがなかなかの大物にぶつけてきますね。なにかとマーラーと相性がいいところあるのかも。

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