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~名もない蛾と虹の錯乱~ 内の思いと外の色彩をつらつらと。
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Maureen McCarthy 「Queen Kat, Carmel & St Jude Get a Life」 感想
前回のエントリーに拍手ありがとうございます~
最近どうも軽躁とはまだ言えないレベルの焦燥や活動上昇が出てきていて。例えば天使のまなざしとかスクリャービンとかにはそれがうまく働くのですが(気分が高揚したときのスクリャービンたまらないっすね)、弊害もちょこちょこ来ている。

そんな中これも軽躁傾向の影響で昨日は久しぶりに読書しました。Melina Marchettaの「Looking for Alibrandi」というヤングアダルト小説のことを調べていたのですが(今サーチかけたら映画版も小説もこのブログで紹介していなかった!そのうち。オーストラリアを読むのに大変良いです。オーストラリアの文化を教える教材にも使われているそうで)、その本のことを考えているうちに同じくオーストラリアのヤングアダルト小説であるこの本を思い出して10年ぶり?に読んでみました。

オーストラリアの女流作家Maureen McCarthyの小説、「Queen Kat, Carmel & St Jude Get a Life」。
今回これを久しぶりに読んで一番思ったのは、若い人が人生で「間違える」ことが許されないような風潮がある今だからこそ読んでもらいたい本だな、ということです。
あとこの本がメルボルンのシティ周りが舞台であることは本当に素晴らしいですね。今だと地名が分かりますし、出てくる場所がものすごく身近で景色がぱっと浮かぶのは嬉しかった♪(Melwayでたまに調べましたが)

この本の主人公はヴィクトリア州の田舎のとある地方で育ち、メルボルンの大学に進学しようとしている3人の女の子です。
Katerinaはブロンド美人でちょっとお高くとまった印象のある子。両親が医者で、育った町ではかなりお金持ちの育ち。成績も良く、大学では法律を学ぶ予定。
Carmelは代々農場を営む家族の、8人兄弟の中ただ一人の女の子。自分の太った体型を気にしていて、そして進学希望だった大学の音楽のコースに落ちたが、歌うのが好きで美声の持ち主。
Judeはオーストラリア人の母と今は亡きチリ人の父の間に生まれ、父のように医者になることを目指して医学部に進学した正義感の強い情熱的な子。
この育ちもキャラも全く違う、ほとんど会ったこともない3人が育った町を後にして、メルボルンの街で一緒にシェアハウスを始めるところから物語は始まります。そして物語は3人それぞれの視点から都会での生活1年目を進めていきます。

ある程度予想はつくと思いますが、3人の暮らしも、3人それぞれのメルボルンでの新しい生活も波瀾万丈です。
シェアハウスだって大学生活だって人間関係だって家族とのいろいろだって、うまくいかないことがほとんど。
本当にこれはきれい事抜きでかなりきっついこと色々出てきます。かなり泥臭いことだったり、(色んな意味で)痛いこともたくさん。読んでて苦しいというかあいたたたたなことも。女の子同士ならではのキャットファイト的なものも。

各登場人物の欠点もきついものまでしっかり描写している節がありますね。例えば私は最初Judeが好きで、途中で彼女のお節介なまでの正義感とか熱さとかまっすぐな気質とかが「あーやっぱりだめかも」となるのですが、一周回って最後には彼女がやっぱり好きになる。それはある程度他の2人でも一緒だと思います。
その「あーだめかも」と思わせるほどきつく欠点を描写しながらも登場人物一人一人を最終的には人間として愛せずにはいられない、そんな人物描写が素晴らしいと思いました。

それから若いときに通る迷い道だったり、馬鹿なこと無茶なこと(笑えるものもそうでないものも)、公開することも、大人になったり新しい生活を始めるときの挫折だったり失敗だったり、そういうものがものすごくフランクに、リアルに書いてあるのが本当にこの本の魅力であり、大切なことだと思います。
この本を読むと新しい生活、都会での生活は本当にサバイバルなんだな、と実感しますね。

面白いのは本を3/4ほど読み進めても実はまだ3人の間には相互的に友情が芽生えていない部分もあったり、誤認もあったり、トラブルも会ったりで。でも生活はなんか割と早いうちから成り立ってるし、不思議と色々うまくいったりしている、ベストではないけどなんとかなっている不思議ななりゆき。
あと実際のところ、Kat, Carmel, Judeそれぞれに関して本の最後までたどりついても解決していない問題ってあるんですよね。だから全部解決してハッピーエンド、なんていう都合の良いエンディングでもなく(それがまたリアルの追求でもあるんですよね)。

あと3人が育ち、性格、得意分野や家族との関係が全く違うだけでなくメルボルンに来て身を投じた世界がまったく違う、というのも面白いですね。
メルボルン大学やシティでのショッピング、移民によるエスニック文化、若者に政治活動、Fitzroyのカフェ、ゲイ・クラブ、ドラッグパーティー、などなどなど。
メルボルンって小都会ですがこんなにも多様な世界や文化があるんだ、ということを改めて認識。
(あと都会の田舎との差だったり、田舎の人情や田舎ならではの問題とか。)

3人にはお互いどんなに欲しくても手の届かない、うらやましいものがあったり、それがその人自身には迷惑でしかなかったりして、この物語を全体でみると3人がお互いを認め合うのは多様性と違いを受け止め、楽しむことにつながって、他人と自分を受け入れ好きになっていく、ということにつながるんですよね。
そして人を生まれや交友関係、外見などで偏見を抱いたりしてはいけない、ということも語られています。

さらにこの本ですごいな、と思うのは「みんな不器用で、みんな間違いを起こすのが当たり前」というのをきっちり打ち出しているということですかね。Carmelが最初にシェアハウスに入ったときの気まずさが良い例だと思うんですけどとにかくみんなが不器用!でもそれが人間的で、それが愛しいのです。

とにかくフランクな人間ドラマですね。人生において「間違える」ことにきれい事抜きで向き合い、そして勇気づけてくれる本であり、さらにメルボルンという小都会の「多様性」の賛歌ともいえる本。
メルボルンは不思議な縁の街なんだな、と。決して派手ではないけれどこの街の魅力と性格を存分に生かしている小説だと思います。
英語しかないですし、ちょっと分厚いですが(434ページ)英語はオーストラリアで普通に使われているものがほとんどなので難しくはないですし親しみやすいのでは?(多分)


今日の一曲: オリヴィエ・メシアン 「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」より第14番「天使達のまなざし」

NaxosにあるMichael Kieran Harveyの演奏(試聴可)

以前紹介した記憶がありますが今回またリサイタルに向けて。
天使は炎から生まれた神の使い、神の一番近くにいる存在にもかかわらず、神は自身の分身、息子を「人間」として生まれさせた。それを知った天使達が混乱し、慌て、そして複雑なまなざしを幼子イエスに向ける曲です。

メシアンの音楽では天使ってほとんど穏やかに描かれませんね。炎の化身にして神の力を具現した存在なので。
特にこの曲では天使=鳥+炎+機械みたいな描写をされています。
天使ってのは思考と同じくらい速く動く(翼はその象徴)といいますし、さらに慌てているためものすごく音が細かい。

速くて落ち着きが無く、激しくしかも不協和音が多いということでなかなか聞きにくい曲ではありますのでちょっとイメージの面でお助けしたいと思います。
まずはこの「慌てよう」ですね。ものすごく機械的な、数学的なパッセージが出てくることからこの天使達が普段から厳しい規律のなか生きてることが分かりますが、とにかくこのせわしなさ。
さらに後半で天使に「階級」があることが分かります。高音でほぼ鳥の声そのままな話し声の天使と、もちょっと低音で鳥っぽさが抜けた、機械的なリズムの伴奏を伴った天使。低い階級の天使(高音)はこの一大事にひたすら憤っているけれど、高い階級の天使(低音)はそれをなだめながら神の意志を疑問に思い推測しようとしているシーン、と説明したら分かりやすいかな。

「20のまなざし」は一つ一つが絵みたいな性質を持っていて(鳥のカタログよりも絵っぽい)、でもあらかじめちょっと知っておかなくちゃいけないお約束ごとみたいなものがあって。西洋の宗教画で赤と青の衣や百合の花の女性が聖母マリア、とかありますがそういうことがメシアンの音楽でもあるんです。
だからちょっと聞きただうるさいだけ(汗)のこういう曲もさっきみたいな説明で少しイメージしやすくなったらな、と思います。

リンクは久しぶりにマイケルの演奏を。彼はせわしい人なのでこの楽章にはぴったりなんですよ(笑)実際かなり速く弾いています。
各トラック試聴ができるので(タイムリミットありだったかな)是非他のまなざしもいくつか聞いてみてください。ちなみに初めましてでお薦めなのは1, 5, 11, 19, 15, 4, 10くらいかな。 

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